|
|
|
|
NEWS || REPORT #2
Posted on September 13, 2012 |
|
|
|
山本 健一選手
グランレイド・デ・ピレネー2012 レポート
レース名: Grand Raid Des Pyrenees 2012
開催地: フランス
日時: 2012年8月24日(金)7:00スタート
レース結果:1位 タイム:24時間37分44秒/ 160km
|
レースはフランス・スペインの国境付近のピレネー山脈で開催されました。スタート・ゴールはフランス南西部ピレネー地方のVielle-Aure(ヴィエル・オール)という小さな街で、古い教会が建つセンタービレッジでした。街並みはとても古く、歴史を感じる素敵な所です。
GRPに出場するにあたっては、昨年の夏UTMBが終了した時点で、この大会の情報を聞きまして一年間かけて準備しました。なんやらUTMBと同時期にもっと過酷なレースがフランスの反対側でやっているようだ、と。足が遅い私にとってはテクニカルなコースの方が得意でありまして、楽しく感じます。そんなことでGRP出場を決意したわけです。
私は大会によって毎回小さな目標を設定しています。昨年のモンブランUTMBでは「観客にハイタッチ、笑顔で応えよう作戦」、今年5月の富士山でのUTMFでは、「大好きな下りをとばさずゆっくり走ろう作戦」。そして今回の目標、それは、「リミッターカット作戦」です。これはマイペースが遅すぎる私にとって必要なことでした。今大会は幸か不幸か日本人は私ただ一人でした。国内レースではいつもだいたい同じメンバーで走り、ペースが自動的に決まっているような感じです。だいたいこのくらいかな、みたいな。ですから、だれも知らないこのレースは遅すぎるマイペースの殻を破る絶好の機会となることを予測して、この目標にしました。
いよいよ前日。受付です。装備点検をきっちり行っていました。参加賞もいただき、中身はワイン、パテ、サラミ、ケーキ、Tシャツなど。大会ディレクターであるシモンに挨拶をし、また一昨年UTMBで一緒にゴールしたダワ・シェルパ選手と談話&写真撮影をしてもらいました。夕方はブリーフィングがあり、強風のため明日のレース2時間遅れで午前7時スタート、悪天の場合は標高の高いピークカットとのこと。実際昨年はコースカットがあったようです。前夜はテーピングをしてもらい21時就寝。この期間中21時就寝を心がけていました。
さて、レース当日。4時55分起床。昨夜はトイレに6回も起きました。老廃物出し切りました。いい感じです。昨日の残りのご飯と味噌汁を混ぜて、それに鯖缶をいれ、鯖雑炊。翔くんといつも通り食べました。6時20分会場へ向かいます。いきなりステージに上がらされ、シモンに「ジャポンからきたヤマモト〜」紹介して頂きました。会場には外資系トレイルランナー渡辺千春さんが応援に来てくれていました。テンション上がりましたね。人で埋め尽くされたスタート会場は身動きをとるのが大変でスタート前列方面に向かっていると、なんだかカウントダウンが始まっている様子。そのまま流れ出す感じでスタートラインを通過しました。本当はスタートラインにたち、目をつむり、今まで支援してくださったスポンサーの皆様のことや家族のこと、職場の人たちへの感謝の気持ちをもう一度思い出したかったのですが、その時間はありませんでした。とりあえず走り出しました。まだ暗い中ですが、これから日が昇るのでヘッドランプはつけませんでした。霧の中を登ります。いきなりゲレンデ1300mの一気登りです。しかしアドレナリンがすでに大量に分泌されているのを感じた私は、あとのことをあまり考えずすたすた登ります。リミッターカット作戦ですから。途中ガスが晴れ、雲海になりました。最高にテンションが上がり、叫びました。周りにいたランナーにフランス語で、景色がキレイは「ボー」と教わりました。日本語ももちろん教えました。「きれいだなー」。
第1エイドRestaurant Merlans(14km:2038m)では体調絶好調でベスパとハニースティンガージェルと水を補給し先へ進みました。今回の補給食もハニースティンガージェルです。味が新しくなり更においしくなりました。特にフルーツスムージーうまいです。このエイドはスキー場のレストランで、冬になるとにぎわっているんだろうなぁと雪景色を想像してゲレンデに飛び出しました。ここから第2エイドは、事前に多くの方が、岩が多くてテクニカル、要注意と言っていた場所です。でも私はどんなコースかワクワクしていました。ここは湖が点在しており、湖畔にテントを張っている家族もあり、素晴らしい場所でした。雰囲気よかったです。しかし言われた通り、ガレ場で一歩間違えると大変な怪我をしそうな感じです。30〜50cm四方の岩が永遠と続いていました。でもこの日の私は、岩=コブのようにピョンピョンと飛びながら楽しく走れました。
あっという間に第2エイドArtigues(29km:1190m)に到着。ここではサポートクルーが間に合わないかもということで、第1で第3までのジェルを持っていたので、べスパと水の補給だけでさっと出発。こちらに来てから、乾燥しているためかのどがすごく渇くので、水分やたらと必要です。毎回1〜1.5L飲みました。第2エイドから第3エイドは、レース二日前に試走をしたところ。けれど、ここが結果的に一番苦しかったパートです。ここは約1800m一気に上ります。ストックを使い過ぎたせいか全身の力が抜け、眠気も来ました。(まだスタートして4時間くらいだけど。。。。なんで?)とてもだるかったです。試走をしておいてよかった。前半にして山場を迎えてしまいました。正面に今大会最高峰のPic
du Midi(2878m)を見ながらひたすら歩く。走る。
やっと第3エイドのCol de Sencours(36km:2378m)に昼過ぎに到着。このエイドは古い建物でして、噂によると1800年代のものとのこと、その中がエイドステーションになっていました。かっこよかった。補給を済ませ、Midiへ向かいました。観光客もたくさんいて、多くの方が「ブラボー!」と声を掛けてくれた。私は「ボン・ボクワイヤージュ!」と声を掛け楽しいひと時を過ごしました。そんなことをしているうちに先ほどまでの疲れは取れ、いいリズムに戻ってきました。素晴らしい景色でありました。ショウ君もカシャカシャ。さらに山頂からは「けんいち〜」という大きな声が。友人の渡辺千春さんが声援で私を引っ張ってくれました。とても力になり、気持ちも上がってきました。もう完全に復活。同じ道を戻り、第4エイド(第3と同じ)で補給をし、第5エイドであるHautacam(62km:1509m)へ。ここでは試験的にストックを置いて行きました。ガレ場はストックない方がスムーズなような気がします。この区間も景色抜群でした。しかしほとんどガレ場のトレイルで1回滑ってこけましたし、標高差300m前後のアップダウンも激しく、最初から激しいコースだー、って思ったり。途中LucBleu(51km:1950m)の湖畔で前を走っている選手が水が切れたらしく、沢の水を飲んでいた。私も切れかかっていたので飲みたかったけれど、牛や馬や羊がすぐそばにいて、うんちがたくさんあるようなところではちょっと口にすることはできなかったです。ちびちび水を飲みながらきれいな湖をぐるっと回りHautacamを目指します。このあたりでは横っ腹が痛くなり、走ると結構きつくて大変でした。深呼吸をしたりして横隔膜を緩める動作を何回も行い様子をみました。やや回復。そうこうしているうちにあっという間にPic
du Midiは遠ざかっていた。人の力のすごさと、景色の美しさに感動しながら第5エイドに到着。
のどが渇きすぎて水と電解質をがぶ飲み。ここからはまた急なゲレンデを下ったり、林道を下ったり、とにかく第6エイドのVillelongue(72km:504m)まで標高を落としていきます。腹に違和感があったので深呼吸しながら抑え目に下ってみました。このエイドはドロップバッグがあります。サポートが回ってくれている私には関係ありませんが、独りで走る場合には大変重要な場所です。MCがにぎやかで非常にいい雰囲気です。靴を脱ぎ、小石や砂を一度掃除し出発しました。ここからはさらに400m付近の街中までさらに下り、そこから第7エイドを挟んで、Cabaliros(89km:2334m)まで約2000mの一気上りです。すごいレース。ここは霧が濃かったため、ルートミスをしないように慎重に歩く。走らず慎重に速く歩く。
第7エイドPouy Droumide(84km:1608m)付近には、羊や牛だけでなく巨大な馬も現れ、よけながら走りました。羊はどいてくれるが、牛と馬はどかない。彼らのウンチを踏まないように走るのも重要。踏むとショックです。このエイドは車で入るのが大変な場所で、ガタガタ道を来てくれたサポートクルーには感謝するのみでした。ありがとうございます。ひとつトラブルが……。Suunto
Ambitのバッテリーが終わりました。事前にGPS取得間隔60秒に一回にしたつもりが、設定できておらず。残念なお知らせでした。T6dに変更。まだ午後8時前だったけれど、この区間で夜が来るのでヘッドランプを頭に装着し再出発。無心で登る。いいペースで登ったつもり。Cabalirosに着き周りを見ると、素晴らしい雲海。最高の瞬間です。さあここからは第8エイドCauterets(100km:925m)まで長い下りが続きます。30分くらいすると夜がやってきました。夜は結構好きです。でも雲の中に入りライトが散って大変でした。
長い下りが終わり、第8エイド。ここも賑やかなエイドでした。こういうところでは妙にテンションあがります。エネルギーもらえます。とにかく応援してもらっている。さっきまで痛かった筋肉も復活する。応援はすごいパワーです。次はまた2000mのコルまで一気上りです。この登りもなかなかで走ったり歩いたり、地面の反力をもらい、とにかく前に進ませることを意識しました。長いレースではスーパーフィート水口さんの教えをいつも思い出します。
コルを過ぎ少し下ると第9エイドAulian(110km:1713m)に着きました。ここもスキー場の中ですが、サポートクルーはしっかりと補給を運び、激励をしてくれました。力になる。ここからの下りは、ハチャメチャにすごいコース。というかスキー場の草むらの中を真っすぐ落ちていく感じ。道ではないしかなり急だし。。。。こんなのありか、と思いながら笑いが出ました。ここの下りは、トレーナーの越中さんに、「遊びながら下って」、と言われていた。以前、越中さんの自宅付近の林の中で走りを見てもらったときに、普通に下るより石とかで少しジャンプしたり、バンクを使ったり、見た目ふざけているほうがリラックスできて、膝への負担が少ないし速いのではないか、という話なり、今回のレースでは下りでそれを思い切って実践してみるというのも課題の一つでした。ちょっとはできたような気がします。
いよいよ第10エイドEsquieze Sere(120km:721m)。深夜0時をまわっていました。ここは二つ目のドロップバッグのポイントです。このエイドにたどり着くまで結構村の中を走りました。道をロストしないようにきょろきょろ。この区間も意外と長いです。ここで不思議なことが一つ。山の中で応援してくれていた地元?の方が、片言の英語で「あなたはトップですか?」と聞いてきた。私は「いいえ」と答えました。
第11エイドTournaboup(131km:1436m)はスキー場の駐車場です。どうしても冬を想像してしまいます。冬にも来たいです。さて、ここからが最後の山場です。ここまで結構いい感じで野生でしたが、全部を出し切る決意で気持ちを更に野生モードに。2469mのコルまでガレ場の登りを飛ばしました。トップの選手もがんばっているなぁと思ったり。コルに着く直前に、私はライトを消して空を見上げました。見たことのない素晴らしい満天の星空でした。今ここにいて、レースをしていることがすごく幸せになった瞬間でした。すべての欲が消え、本当に無心になりました。ここからはすごいガレ場のトレイルが約8km続きました。最高の走りができました。今回のレースのベストランはこの区間だったかなと今思います。
さぁ、ラストの第12エイドRestaurant Merlans(147km:2038m)です。第1エイドと同じ場所です。戻ってきました。エイドを出るときに、ショウ君と千春さんから「これは快挙だ!」「前には誰もいないぞ!」と言われ、まさか、と思いまして、「いやいや前にいますよ。」と言い返したら、「お前が一位だぞ」と。頭が一瞬真っ白になり、「え〜!!」。トップを走りなれていない私は残り13kmの下りを最高に気持ちよく走りました。かなり急で筋肉も疲労していましたが、感じませんでした。村に入ってからは子供たちが伴走してくれ、本当にトップでゴールしてしまいました。何とも言えない達成感と、感動に包まれて、私の初ピレネー大会は幕を閉じました。
ゴール後は今までと違い自力で歩けました。膝も痛くないです。靴の中は親指が黒くなったくらいで他は問題ありませんでした。翌日は筋肉痛激しすぎましたが・・・・。リミッターカット作戦は成功のようでした。何か起こったピレネー大会。翌日の表彰式はとても気持ちよかったです。
自分ひとりで頑張って走るのではなく、みんなの力を感じ、家族に感謝し、観客の力をもらえるこの競技やっぱり最高に楽しいです。表彰台気持ちよかったです。また挑戦したいです。今までより、少しは潜在能力発揮できたのではないかという実感はあります。まだまだいけます。考えられている人間の限界を更に超えたいです。
ありがとうございました。
山本 健一
<今回使用した補給食>
レース前: オーガニックスティンガーワッフルx2
オーガニックエナジーグミx2
レース中: ハニースティンガー エナジージェル (計76本)
オーガニックエナジージェル(フルーツスムージー)x20本
オーガニックエナジージェル(アサイー)x20本
オーガニックエナジージェル(バニラ)x20本
エナジージェル(GOLD)x8本
エナジージェル(バナナ)x4本
エナジージェル(ジンセン)x2本
エナジージェル(ストロベリー)x2本
新しく出たオーガニックエナジージェルのフルーツスムージー、アサイ、バニラ。どれも以前のモノより更になめらかになり、味は私好みでした。摂取間隔は、前半は30分に1つ。中盤は20分に1つ。終盤は15分に1つのペースで摂取しました。場所によっては一気に2個摂取する場面もありました。ハンガーノック等のエネルギー系のトラブルありませんでした。 |
山本 健一|| プロフィール
kenichi yamamoto || profile
1979年 山梨県出身。高校時代は山岳部に所属しインターハイで優勝。大学ではフリースタイルスキーに熱中。現在は高校の体育の教師として山岳部の顧問を務め、夏はトレイルラン、冬はスキーと八面六臂の活躍をしている。2008年の日本山岳耐久レースで優勝し、一躍注目を集める。2009年はツールドモンブランに挑戦し、8位と健闘。
|
RE |
|
|
|